ボーンフィクション14

このお話は、虚実取り混ぜて書いております。実在の人物、機関とは一切関係ないものとご理解ください。

「今週から出勤している、と。」
前々日に撮影したレントゲンを見ながら、医師がいつものように診察を始めました。
「はい。だから通勤に便利な所に転院したいんです。こちらに通うには、年休を取らなければならないのですが、ずっと休んでしまいましたから、ほとんど残っていないのです。」

通院の難しさだけを転院の理由にするつもりでした。
だって、万一、いつかまた救急車で担ぎ込まれるようなことになった場合、イヤな顔されたら困りますから、お互い禍根を残さず、本件を終わらせたいのです。

でも医師は、そんな私の淡い希望にはお構いなしでした。
「いいリハビリの先生についたからって、一週間で治るわけじゃないよ。」
先生、それ言っちゃいますか!?

どうやらさすがに今回ばかりは申し送りがあったのでしょう。
医師は私に、手を動かしてみるよう指示しました。
左右の手の甲と甲を合わせて見せると、もう動くじゃない、と感心したように言います。
・・・いいえ、左右の手首の角度、シワのより具合が全然違います。
もしかしたら、日常生活に大きな支障がなくなれば、リハビリは成功、とみなされるのでしょうか。
でもそれは、私の目指すゴールではありません。

この後のやりとりは省略しますが、私はなんとか転院理由を年休事情で押し通し、紹介状を手に病院を後にしたのでした。

教訓
次のプロジェクトでまた一緒になるかもしれないから、どんな場合も絶対にケンカ別れはしない、という考え方は、必ずしも一般的ではありません。

ボーンフィクション13

このお話は、虚実取り混ぜて書いております。実在の人物、機関とは一切関係ないものとご理解ください。

病院には、たくさんの患者が来ます。
私の骨折よりも重大で、配慮が必要な方もいるでしょう。
私のような、どこにでもよくある単純な骨折より、そういう患者さんを優先することは、医療機関として正しい判断なのでしょう。
でも、私の右手も右足も、私にとっては一つずつしかない、貴重なリソースです。

私の周りには、過去に骨折したことが原因で、こっちの肩はここまでしかあがらないんだよ、と笑う人や、片足を引きずりながら歩く人がいます。
そういった事態は全力で避けたいと思いました。
そのために有効なリハビリの方法を私は知りません。
医療機関の力を借りたいのです。

事件?の翌々日、私は再び病院を訪れ、転院するので紹介状を書いてください、と受付に申し出ました。
転院希望の病院名も告げたので、前回の転院同様、少し待てば紹介状をもらえると思ったのですが、医師から処置室に入るよう呼ばれました。

中に入ると、そこには、不機嫌を絵に描いたような医師と、困惑しきった気の毒な看護師がいました。

教訓
トリアージは災害現場だけで用いられる概念ではありません。

ボーンフィクション12

このお話は、虚実取り混ぜて書いております。実在の人物、機関とは一切関係ないものとご理解ください。

そして2週間後、事件は起きました。

その日は担当医の急な不在で、ピンチヒッター?の医師が診察してくれました。
リハビリは毎日通っていますか?と代理医師に言われて、私はまたびっくりしてしまいました。

自宅で、自分で、と言われているんですが、通ってもよかったんですか?
そして、「作業療法」はどこへ行ってしまったのでしょう?

尋ねても、担当医ではないからリハビリの指示は出せません、とのこと。
いつもの親切な看護師が、リハビリ室に申し送りをしておきます、と言ってくれました。

言ってくれたのですが、リハビリ室に行くと、申し送りやメモは何もありません、と冷たく言い放たれました。
私は必死になって、最初に言われた作業療法の開始時期を過ぎていることを訴えましたが、指示がありません、の一点張りです。
ではせめて、自宅で行うリハビリの参考資料があれば見せてください、と頼んでみました。
すると答えは
「指示がないのでできません。」

この病院に通っていては、自分の手足は元に戻らないかもしれない。
そう感じた瞬間でした。

教訓
リハビリはHMSではありません。

ボーンフィクション11

このお話は、虚実取り混ぜて書いております。実在の人物、機関とは一切関係ないものとご理解ください。

最初のリハビリから次の通院までの1週間、私は自宅で毎日リハビリに励みました。
うちに温浴槽はないので洗面台のシンクにお湯を溜め、10分間右手を握ったり開いたり。
1日3回やりましたが、手よりも中腰の姿勢がキツくて大変でした。

そして翌週。
回復は順調なようで、医師からは、今後は毎週ではなく、2週ごとの通院でいい、と言われました。
・・・え?来週から作業療法の予定では??
びっくりして看護師に尋ねると、1週くらいズレても大丈夫、とニコニコしています。
そしてその日のリハビリは、前回同様、温浴槽での10分間ニギニギのみです。
足の方は、まだ始まりませんでした。

医師からの指示では、自宅で引き続き自分で手を少しずつ動かすように、とのことでしたが、「自分で」やる方法がわかりません。
仕方がないので、図書館に参考資料を借りに行きましたが、並んでいるのは、要介護予防を目的とした、高齢者向けのリハビリ体操本ばかりでした。
それでも何もないよりはいいので、脳梗塞などで片麻痺を起こした人向けの体操が紹介されている本を借りて実行しました。
足についても、無理なくできる体操を選んで始めてみました。
とはいえ、これでいいのか、全くわかりません。
こんな調子で貴重なリハビリ期間を過ごすことに、少しずつ不安が生じてきました。

教訓
洗面台のシンクに溜めたお湯は10分経たないうちに冷めるので、冬場は温浴槽の代わりに使うことができません。

ボーンフィクション10

このお話は、虚実取り混ぜて書いております。実在の人物、機関とは一切関係ないものとご理解ください。

夫が出張している間に、手のギプスと足のギプシーネを外しました。
もう、4点支持杖を使えば車椅子なしで外出できるようになっていたし、何やかんやで骨折から既に1か月経っていました。
いよいよリハビリの始まりです。

ギプシーネが外れたとはいえ、1か月の固定で足首が固まった状態になっているので、靴は例の、夫特製斜め底サンダル&アニマル靴です。
そんな足下と4点支持杖でリハビリ室に行くと、いきなりチェックが入りました。

「その靴はなんでしょう?」
冷たい目線にたじろぎながら、足首の角度に合わせてサンダルを改造したこと、その高さに合わせて厚底ブーツを履いていることを説明しました。
「厚底の靴で高さ調整をするより、左右の足の高さが違う状態で歩く方がいいです。」
歩きやすさより、安全性を重視しろ、ということですね。
「4点杖はやめた方がいいですね。4点がしっかり地面に着かなかった場合、却って危険です。」
はい、次から夫ご自慢の、ドイツ製の普通の杖を借りてきます。

以上のように理学療法士とは足の話ばかりしましたが、初のリハビリは、右手の肘から下を温浴槽につけ、バブルジェット?を浴びながら、10分間自分で手を動かす、というものでした。
通院しない日は、自分で軽く動かすようにとのことです。
2週間程度、このリハビリを行った後、作業療法を始めるそうです。
足にリハビリは、まだスタートしませんでした。

教訓
自分ではすばらしい発明だと思っても、似たような物がまだ世の中にない場合、その発明には何か重大な欠点があると考えるべきです。

ボーンフィクション9

このお話は、虚実取り混ぜて書いております。実在の人物、機関とは一切関係ないものとご理解ください。

夫はガミラス(よりコワい国。しつこいですね)に旅立つ前に、私にあるアドバイスをくれました。
それは、リハビリについて、ネットでいいからよく調べておけ、というものでした。
・・・まあ、自力で図書館には行けませんからね。

実は、夫は以前、病気で歩行ができなくなったことがありました。
その時彼は、言うに事欠いて入院中の病院にiPadを持ち込んでネットで治療法やら事例やらを調べまくり、医療スタッフを説得して自主的なリハビリを実施しました。
その結果、本人の画策通りの回復を果たしたという実績の持ち主なのです。
経験者の言うことなので、真摯に受け止め、私も調べ始めました。

調べてわかったのは

リハビリが必要なのは、骨折箇所ではなく、ギプスで固定されて「拘縮」(固まって動かないこと)した関節であること
リハビリが有効な期間は限られていること(身体的にも、健康保険的にも)
そのため、ギプスを外したら、直ちにリハビリを開始する必要があること。
手足のリハビリは、自主的に動かす他、他動的に、「少しずつ動く範囲を広げる」必要があること。

でした。

他動的なリハビリとは、要するに理学療法士に徒手でぐいぐい押したりひっぱったりしてもらうものです。
もちろん、自主的に動かすのがメインですが。

わからなかったのは、「痛い範囲まで無理してやる」方がいいのか、「痛くない範囲でやる」のがいいのか、という点でした。
流派があるらしいいのですが、私は何となく、「痛まずに動く範囲でやっても効果は望めない」という説が正しいように思いました。

教訓
「鉄は熱いうちに打て」という言葉が好きな人は、十中八九リハビリにハマる傾向があります。

ボーンフィクション8

このお話は、虚実取り混ぜて書いております。実在の人物、機関とは一切関係ないものとご理解ください。

これから約2か月間、今まで溜め込んだ年次有給休暇つぎこんで自宅療養します、と会社に連絡すると、なんとノートPCが送られてきました。
できる範囲でいいので、仕事しろ、と。
さすが、ケチナントカジューロードーとか呼ばれた会社です。

そんなある日、夫がウワサの国に海外出張することになりました。
こんな不自由な私を置いて行くの?と涙目で訴えると、夫はオレの方が大変やで、といいます。
大変?
「そうや。あの国よりは、ガミラスの方が、日本語が通じる分マシや。」

それでも夫はガミラス(よりコワい国)出張の前に、ギプシーネをはめた足でも歩けるようなサンダルを自作してくれました。
甲の部分がべルクロで開けるようになったサンダルに、三角柱状の車止めを装着したもので、鈍角に開いた状態で固定された足にぴったりフィットします。
健康な左足は、右と高さを合わせるために、夫が厚底ヒールのアニマル柄ブーツを見つけてきてくれました。
アニマル柄なのは、これしかサイズが合わなかったためで、他意はありません。
この自作シューズ?のおかげで、もちろん杖を使ってですが、室内なら、急にスタスタ歩けるようになりました。

しかし、この夫の傑作が、後に災いを呼ぶことになるのでした。

教訓
左手一本でノートPCを操作する場合は、トラックパッドよりマウスが便利です。トラックパッドでは、意図せずカーソルをあらぬ位置に飛ばしてしまうことがあります。

ボーンフィクション7

このお話は、虚実取り混ぜて書いております。実在の人物、機関とは一切関係ないものとご理解ください。

骨折生活が軌道に乗ると、当然のことながら、仕事が心配になってきました。
とはいえ、車椅子でなければ外に出られない身です。
どうすればいいのか・・・?
電動車椅子、でしょうか、やはり・・・

というわけで、電動車椅子のレンタルを探します。
一目見て気に入ったのは、Quantumというモデルでした。
別に職場が不整地にある訳ではないのですが、やっぱりオフロード仕様?に惹かれます(オフ車で骨折したくせに)。

早速レンタル会社に連絡し、試乗の予約を入れました。
が、夫も医師も大反対、そんなにまでして出勤しても、周りに迷惑なだけだ、と言います。
結局、出勤はあきらめ、試乗の予約はキャンセルしました。

「そうですね、高齢者や障害者はともかく、ケガ人には世間の目は厳しいですからね。」
レンタル会社の方には、専門家の知見というか経験というか、そういうものに裏打ちされた言葉をいただいてしまいました。

教訓
痛い思いをし、並々ならぬ努力をしても、第三者から見ると迷惑にしかならないこともあります。

ボーンフィクション6

このお話は、虚実取り混ぜて書いております。実在の人物、機関とは一切関係ないものとご理解ください。

救急受け入れを拒否されたため、2か所の病院にそれぞれ手と足の骨折を診療してもらうはめになってしまいましたが、これでは通院があまりに大変です。
手首骨折のショックで思考回路がショートした私は、手首のホネを徒手で元の位置に戻してくれた医師に、足もまとめて診て欲しい、と申し出ました。
「はい。じゃ、前の病院の紹介状もらってきてね。」

そして次の診察。
私は前の病院からもらってきた紹介状を医師に渡しました。
それを見た医師、足のレントゲンを撮ってくるよう、指示を出します。
足だけ?
手は?

レントゲン技師に、手はどうするんですか?と尋ねると、足しか指示が出ていません、とのこと。
とはいえ、どう考えてもヘンなので、レントゲン技師は手首も撮影してくれました。

どうやら医師は、紹介状に記載された、足のことしか念頭になかったようです。
・・・自分でつないだ手の方を忘れてしまうものなのでしょうか。

そんなトラブルもありましたが、とにかく1か所で手足の診療を受ける段取りができました。

教訓
紹介状を医師に渡すタイミングには細心の注意を払いましょう。

ボーンフィクション5

このお話は、虚実取り混ぜて書いております。実在の人物、機関とは一切関係ないものとご理解ください。

こうして私は、ほとんど寝たきりの療養生活を送ることになりました。
夫が可能な限りの世話をしてくれますが、基本的に日中はひとりです。
トイレと昼食は自力で何とかしなければならないので 、通販で四点支持の杖を買いました。

四点支持とは、接地面が四つ足のテーブル状になっていることを示します。
グリップは大きくS字を描いていて、水平に握るようになっています。
つまり、体重をかけて支えにするのに適しています。
この杖をまるで登山のピトンみたいに、進む方へ移動させながら、すがって歩くのです。
四本足の台を持ち歩くようなものなので、比較的安心して、家の中だけですが動き回ることができます。

外出の際は、購入したきり、ガレージに入れっぱなしになっていた車椅子を使うことになりました。
この車椅子、義父が倒れた時に夫が購入したのですが、車椅子で出歩く間もあらばこそ、急逝してしまったので、開梱すらしていなかったのです。
こんな形で、私が使うことになるとは・・・。

そして気がつくと、玄関には松葉杖が4本残っていました。
最初の病院と、2番目の病院で借りたものですね。
もう、使いようがありません。
夫が病院を巡り、返して回ってくれました。

教訓
このブログには、UVカットガラスのクルマの広告が出ることがありますが、骨折の治療のためには、ある程度日光浴をして、ビタミンDを不足させない努力が必要です。