スリだったかもしれない

先週末のHMSのことを書こう書こうと思っているうちに、また週末がやってきてしまいました。
でも、ちょっと不可思議な経験をしてしまったので、先にそのお話を書くことにします。

会社からの帰り、その駅に着くまではそこそこの混み具合だった電車は、乗り換え客で一気に満員になりました。
やはりその駅から乗車した私ももみくちゃに。
肩に掛けていたトートバッグは、ある男性が胸に抱えたカバンと、その前にいる別の男性の背中に挟まれて、引き寄せることができません。

引っ張ると、バッグは斜めに傾きました。
ふたのない女持ちのバッグです。
中身が滑り落ちたらどうしよう?

心配しつつ、ぐいぐい引っ張りましたが、バッグは押さえつけられたようにがっちりはさまれて動きません。
それでもじわじわ引き続けると、傾いたまま、ようやく私の近くまで戻ってきました。

が、なんとなく変な感覚がありました。
すっ、と何かを抜かれたような、その反動で手元にバッグが戻ってきたような?

はっと気がついて、バッグの中に目をやると、おサイフがありません。
バッグを目一杯引き寄せ、探って見ましたが確かになくなっています。

乗車する直前、おサイフは間違いなくありましたから、この車内で消えたことになります。
カバン男怪しい!とすぐに思いましたが、証拠はありません。
とっさに、私おサイフ落としちゃったみたいなんですけど、と言ってしまいました。

カバン男はもちろん、他の乗客の方も関心を向けません。
諦めず、空色の長サイフです、その辺にないですか?とひとり言い続けると、さすがに乗客がざわつき始めました。
言い続けながら、カバン男のカバンと、その前に立つ男性の間に入り込むようにして、混んだ車内の床に手を伸ばそうとした時、カバン男が目を逸らしたまま、私からは死角になっていた右手で、何かを差し出しました。
「これですか?」

私のおサイフでした。
それです、ありがとうございます、と目を背けたままのカバン男に礼を言い、受け取りました。
下車してから、おサイフの中を確認しましたが、なくなっているものはありませんでした。

これが私の身にふりかかった、不可思議な出来事です。
でも、もっと不可思議だったのは、実は自分の心の動きでした。
おサイフが無いと気付いた時、ホンの数秒でしたが、ここで騒いだりしたくない、降りてから警察にとどけようか、という思いが湧いたのです。
後から考えると、絶対良くない手段だとちゃんとわかるんですが。

自分が甚大な被害を受けるかもしれない一歩手前の時点で、このまま状況に流された方がラク、だなんて思うものなのか、このワタシが!
この経験、しっかり覚えておかないと、歳をとってからさぎにひっかかるか、自分が罪を犯すか、どっちかやっちゃうような気がしてなりません。